丸底でかバッグ　ベニテングタケとモエギタケ〜父との思い出・あるじの黒歴史について

　このところ気になっているキーワードがある。あるじは新聞を読むのが好きなのだけど（かなり読む記事に偏りがあるけど）、教育欄を読んでいると、「非認知能力」という言葉が結構頻繁に出てくるので、なんだろうと思って、何冊か本を購入して調べてみた。それでわかったのは、なんのことはない。父や祖母が、私に叩き込んだ教育だったこと。そして、「非認知能力」を育むベースにあるのは、“自己肯定”と、“他者信頼”にあるとあった。このベースになるものを、確かに祖母も父も育ててくれたけど、この、「非認知能力」の高い人が、集団の圧力によって粉々にされる可能性があることについては、あるじが読んだ何冊かの本では、触れられていなかった。
　あるじは狭義の意味で「非認知能力」が子どもの頃から高かった。そして思春期を迎え、自意識過剰になり、引っ込み思案の恥ずかしがり屋さんになった。でも、生きづらさを抱えてはいたけど、普通に過ごしていた。けれど、高校三年生の秋にあるじは、集団によるいじめを受けた。大学受験で、欲求不満になり、イライラしている同級生たちのスケープゴートにされたのだ。あるじはおとなしかったけど成績は良かった。そして、目指していた美大も、あるじの成績では、ほぼほぼ落ちる大学ではなかった。いじめは、陰湿で、毎日続いた。そして、あるじはボロボロになり、父に「いじめがひどくて耐えられないから、学校を休ませてほしい。出席日数は足りている。卒業まで学校を休ませてくれ」とお願いした。でも父は「教師の子どもを登校拒否にさせるのは自分の面子に関わる。学校を休ませるわけにはいかない。学校に行け！」と言って、父に断られた。あるじが学校をサボるとか、いい加減なことができる子どもだったら、深刻な状況にはならなかった。でもあるじは真面目だったから、毎日いじめに遭うために学校に行った。
　そして、誰も味方してくれる人はいなかった。その中で一番陰湿にあるじをいじめていた人がいた。その人は、あるじを陰湿にいじめぬいて、そして、あるじは、とうとう壊れた。そうしたら、その人は、下校時間になると「一緒に帰ろう」と声をかけてくるようになった。ボロボロのあるじにとっては、もうどうでもよかった。そして陰湿ないじめに遭いながらその人と一緒に帰った。
　実は、あるじは、超お馬鹿なお嬢様学校だけど、高校を首席で卒業している。本当なら卒業証書を総代で受け取りに行くのは、あるじのはずである。でも、先生との間でどういう取り決めがなされたのか知らないけれど、卒業証書を総代で受け取りに行ったのは学年で10位にも入っていない、あるじを一番陰湿にいじめていたその人だった。あるじは、美大受験で、共通一次試験の成績は十分足りていた。けれど、陰湿ないじめのショックで、あるじは絵が描けなくなっていて、実技の時間は、椅子に座ってブルブル震えているのが精一杯で、絵を描くことが全くできなかったから、当然、試験に落ちた。あるじの黒歴史はその後もずっと続いたけど、あるじが、本来の意味での自己肯定感と他者信頼を取り戻すまで、何度も壊れてボロボロになり、血反吐を吐く思いをして生きてきた。そして最終的に「コミュ力高！」と言われるぶっ飛んだおばちゃんになり、今に至り、本当の意味での「非認知能力」を回復するまでの、あるじの黒歴史は、あまりにも辛すぎて、悲惨すぎて、ここでは書くことができない。あるじがずっと父を許せなかったのも、父が、いじめにあってボロボロになっている娘を守ることよりも、自分の教師としての面子を保つことを選んだから。
　いじめに遭う前から、よく学生の頃に先生たちからあるじは言われた。「お前は、絶対、潰れるなよ。そのまままっすぐ行けよ」と。でも最終的に、いじめを乗り越えて、自分を取り戻すことができたのも、ぶっ飛んだ子どもだったあるじを祖母が「お前は面白い」と褒めてくれたから。そしてあるじを信頼してなんでも話してくれたから。自分は、祖母から、絶対的に信頼されている、愛されているという経験があったから、あるじはいじめにあって壊れても元々、ベースにあった自己肯定感をなんとか保つことができたのだ。何度壊れても、他者を信頼することが、かろうじてできたのだ。
　あるじの場合は極端だけど、「非認知能力」を育てることの良い側面にしか触れられていないことについてはどうかと思った。高い「非認知能力」を持った子どもが、スケープゴートにされることもある。そして、あるじは「全て自分が悪いのだ」と思い込んだ。何をしても自信を持てない時期は長く続いた。でも、この時の経験から、あるじは、人を見て、瞬時に、その人が、どういう人かを判断することができるようになった。そして、生きていくうちに様々な出逢いがあり、あるじは、自分の良い面も、悪い面も受け入れて、ありのままの自分を肯定し好きになることができた。いじめを克服できた。でも、還暦を迎えた今でも、時々、いじめに遭っていた時のことを思い出して辛くなる時がある。フラッシュバックに苦しむことがある。それはずっと続くのだと思う。それでも、いじめに遭った後、何度も壊れて、その度に人の温かさに、そして神様の温かさに触れて、健康な自分を取り戻した。憎んでいた父の後ろ姿を追いかけて、満州のことを調べて、極限状況を生きて、自分の身を守ることで精一杯だった父だったから、自分の保身のことしか考えられなかったのだろうと納得して、父に対して愛情を感じられるまでになった。
　結果、自分に起きたことを肯定的に捉えることができるようなって、あるじは成長したけど、あるじは、あるじと同じようなタイプで、いじめにあったりして、潰れて壊れてしまった人たちを結構見てきた。今、あるじが、「生きづらさを抱えている子どもや、生きづらさや、心に抱えた傷を引きずりながら、懸命に生きている人たちのために、何かをしたい」と思うになったのも、あるじの経験からいくと当然の帰結かもしれないけど、もし、父が「学校を休んでも良い」と言って休ませてくれたら、あるじは壊れなかったかもしれないけど、フツーの味気のない人生を生きていたと思う。ぶっ飛んだ自分を好きになり、黒歴史も「まあ良いか」と思えるようになったのも、ある意味（小心者で自分の保身しか考えられなかった）、父のおかげでもある。結果オーライだった。父よ、ありがとう！そして、いつもあるじを信頼して、ぶっ飛んだ子どもだったあるじを、「お前は面白い」と言って褒めて、愛し、慈しんでくれた、血のつながりのない祖母に感謝したい。そして、何よりも、結婚してからも、時々体調を崩して、自分の傷と向き合うあるじを、温かく見守ってくれた、あるじの旦那さまに感謝したい。

　生きづらさを抱えている人に、あるじなりにエールを送りたかった。ベニテングタケとモエギタケのバッグに添えて。「あるじがなんとかなったから、あなたも大丈夫！」と。あるじは、死んでしまいたいと思ったことが、何度かあったけど、生きることを諦めなかった。一生懸命に生きてきた。そして、その結果、たくさんの出逢いがあって、あるじは、癒され、生き抜くことができた。だから、どんなに辛いことがあっても、絶対、生きることを諦めないで、生き抜いて欲しい。「なんとかなる！大丈夫！」そう伝えたかったのです。

　あぁ、また、前振りが長くなってしまった。申し訳ない。　

　ベースはお気に入りのソフトドネガルというツイードヤーン 。3色使っています。編み込みに使用したのは、スペクトルモデム と、シェットランド、ザンビアプリント （廃番）。スペクトルモデム だけで、13色（廃盤色を含む）使っています。少々無理な編み方をしているため、多分大丈夫だと思いますが、何かにバッグが引っかかって、糸が飛び出してきた場合は、かぎ針で内側に引き抜いてください。裏地は、キノコ柄。ポッケは大きめのものが二つです。形を整えるために硬めの接着芯を使用しています。持ち手は、カフカリボン 。鳥さんの柄です。60mmのリネンテープ で補強しています。相変わらずミシンとお裁縫が苦手な私の腕と、高い材料費を考慮した価格設定です。また、バッグ本体と裏地は、手縫いで縫い合わせています。万が一、解けてしまった場合、お客様の方で縫い合わせ可能だと思いますが、送料はいただきますが、当方での縫い合わせは無料です。また、メンテナンスには可能な限り対応いたしますので、何かございましたら遠慮なくご連絡ください。ただし、故意によるものには対応できません。ご容赦ください。秋冬に活躍しそうです。でかバッグなので、荷物がたくさん入ります。丸底タイプが使い勝手がいいです。本来の私の好きなコテコテ編み込みバッグです。お気に入りの作品に仕上がりました。

《使用糸》 ソフトドネガル　ウール100％　イギリス製
　　　　　スペクトルモデム （廃盤色を含む） ウール100％
　　　　　シェットランド（英国羊毛100％使用）　ウール100％
　　　　　ザンビアプリント （廃番）　オーガニックコットン100％
《裏地》 国産　コットン100％
《持ち手》 リボン　カフカリボン ドイツ製
　　　　　リネンテープ リネン100％　ドイツ製