いい ちいさな ものづくり
日本の伝統から取り出した、普遍の美意識を身に着ける。汽水域の金属工芸
ー作り手
山形市中心街でいま注目を集める七日町のシネマ通りは、レトロな建築物や歴史ある建物を残した街並み。かつて映画館が立ち並んでいたその通りは、リノベーションが行われ、若い人が街の流れを作っています。
江戸時代頃は商人の街だったこの場所に、汽水域さんの工房兼、金属工芸ショップはあります。
技術は昔ながらの受け継がれてきたものを生かしながら、デザインや使い勝手は新しく、今の私たちが素敵!と思えるものにしたいと思っています。
日の光、河原の小石、桜の花びら、たんぽぽ、楓のたね、山形県をはしる朝日連峰の山並み…。
緩やかな曲線と繊細なラインに惹かれる汽水域さんのアクセサリーは、ほとんどが自然を捉えた形。
作品たちを眺めると、角が少なく、また、角があっても全て丸みを帯びていることに気づきます。表面に丁寧に加工が施されたことで、金属のつるりとした質感がやわらぎ、温かみが増しています。
人気シリーズの「waku」は、長く日本で愛されてきた花や雲、模様を線でとらえた作品たち。見ているだけで落ち着くのは、日本人の文化に古来から馴染んできたモチーフを扱っているからかもしれません。
アクセサリーの他にも、山形の伝統的な金属工芸の技術をベースとした簪や帯留め、打ち出しの金具など、鍛錬された技術を生かした、クラシカルな和の物も制作されています。
「より今の暮らしに馴染むデザインにしたい」と語られましたが、馴染むだけでなくちょっと一目を置いてしまうような気品ある金工作品たちが、山形の工房で生まれ、全国に送り出されています。
ーものがたり
汽水域とは本来、海と川、海水と淡水が混ざり合う場所のことを指す言葉です。当店は金属工芸の工房を併設した作り手が営む店なので、使い手と作り手が交わる場所にしたいなという思いを込めました。
汽水域さんは、崇史さんと藍さんの夫婦二人で営まれています。
崇史さんは金属工芸作品を制作し、藍さんはショップの運営を担当。
作品を通したショップでの出会いを大切にされています。
お二人は、独立・結婚を機に崇史さんの生まれ故郷である山形市へ移住したそう。
それまで崇史さんは、京都の工房で金属工芸の制作を10年以上されていました。しかし、帰省するたびに人が少なくなっていく山形の街に寂しさを感じ、街を少しでも賑やかにしたいという想いから2017年9月にリノベーションが始まっていたシネマ通りに工房兼ショップの「汽水域」を構えました。
藍さんが作家さんの作品を扱うギャラリーで働いていた経験があるため、「工房と店」という形に自然と定まったそうです。
山形には伝統的な鋳物の技術が根付いており、もともと崇史さんの家系もお祖父さまの代までは鋳物の加飾等に携わる職人さんだったそうです。崇史さんが使用している道具の中にはお祖父さまから受け継いだものも多くあるのだとか。
今ではすっかり担う人の少なくなった加飾の技術を繋いでいくためにも
まずは金属に親しみを感じて頂くことが肝心。
そのためにも、どなたにも開かれた「店」という形は大切にしたいですね。
作品を制作すること、そして、自分たちのお店で使い手に販売すること。この一連がお二人にとって金属工芸を後世に繋ぎ、知ってもらうための方法なのです。
ー想い
大切だからとしまい込むのではなくて、目に留まる、手に触れるところで金属を楽しんで頂きたいですね。
汽水域さんは、日々の暮らしの中で使ってもらえるものを目指しているといいます。そのため、メンテナンスや修理にも対応し、どんどん使ってもらうためのお手伝いを工房で行っています。
様々な素材があふれる現代において、私たちの身の回りから金属の物は少なからず減っているように思います。
長く美しく使うためにはちょっとした手入れやコツが要りますが、独特の色合いや輝きの美しさ、手に馴染む重み等を暮らしの中のちょっとした一部に取り入れて楽しんでいただけたらいいなと考えています。
「買った時、こんな色だったかな…」
「形が歪んだような気がする…」
気になることがあれば、すぐ頼れる。しかもそれがそのものを作った本人というのが使い手としてはとても心強く、嬉しいものです。金属が持つ美しさを、汽水域さんの手を借りながら長い期間をかけて感じてみるのはいかがでしょうか。
ー作り手情報
2021年1月19日