いい ちいさな ものづくり
使う側のニーズに寄り添い、応える萬古焼。「我が家の定番」になっていく、光泉窯のあたたかな器たち
ー作り手
三重県四日市市の地場産業である、萬古焼。陶磁器のひとつの萬古焼は、江戸時代中期に生み出され、1979年には国の伝統工芸品に指定されました。
優れた耐熱性は、ガスレンジや炭火などの空焚きや直火に対応できる作品もあるほど。その特徴から土鍋や急須が多く作られています。
光泉窯さんは、この四日市市を拠点に、萬古焼の特徴を活かした耐熱食器や土鍋を中心にさまざまなオリジナル商品を作られています。
家族で代々経営する光泉窯さんですが、少人数で制作されているとは思えないほどのバリエーションのデザインやサイズの数々。どれも心地よいシンプルさで、落ち着いた色味による優しさと安定感は、「我が家の定番」として日常使いになっていく魅力があります。
四日市萬古焼の土鍋は、国内シェア80%。耐熱に対して高度な耐久性を持つので割れにくいのが特徴です。目の細かい陶土のため、表面がなめらかで美しい仕上がりで、程よい土粒子のためお手入れのしやすさも魅力です。
光泉窯さんでは、土鍋の定番色ともいえる黒と、ナチュラルで優しい色合いの白と濃灰の組み合わせを展開されています。長く使うことで風合いや質感の変化も楽しめます。
光泉窯さんの定番シリーズは、オーバル皿や八角皿をはじめ、装飾を取り去ったすっきりしたデザイン。艶を抑えマットな質感に仕上げた器と、食材にも光を与える艶やかな器の2種類があります。器によっては、茶、濃灰、紺、グレージュ、薄茶、白の6色を展開。和洋問わず使えるので、「どの形」「どのサイズ」「どの色」の器に盛り付けようか…そんなふうに悩むのも楽しいす。
光泉窯さんで長年作られている和モダンシリーズは、土物特有の温かみをじっくりと感じられます。お皿には縁に、カップには側面に「鎬(しのぎ)」と呼ばれる縞模様が入っています。美しく立体的な凹凸に釉薬がかかることで濃淡ができ、独特の表情、雰囲気が生まれます。この手づくりならではの味わいが、シンプルながら存在感を増すポイントです。
レリーフシリーズは、アンティーク食器、北欧食器のような雰囲気を感じさせます。レリーフのモチーフをあしらい、食卓に華やかさをプラス。レリーフ生みだす陰影の濃淡によって、可愛らしくもより深みのある印象です。
他にも、萬古焼だからこそできるグラタン皿などのオーブンウェアも。器にもよりますが、電子レンジや食洗機対応の食器が多いのは使い手には嬉しいことですね。
ーものがたり
光泉窯さんの代表である酒井修さん。光泉窯さんの始まりは、酒井さんの祖父が昭和40年代に設立した製陶所に遡ります。
祖父が職人として働く姿を見ており、小さい頃からものづくりが大好きでした。窯の仕事を始めてからは、萬古焼ブランドの価値を高めたいという想いで、様々なものを作ってきました。
酒井さん自身が立ち上げた「光泉窯」の名付け親は、先代である父の光紀さん。家族で代々作ってきた歴史や繋いできた技術を大事にしながら後世へ反映させていく、そんな想いを汲み取ることができます。
光泉窯では、ご自身で市場調査から企画、製造、販売まで一貫して行っています。それは、光泉窯さんが第一に考える、幅広いニーズに応えるためには欠かせない体制です。少人数での経営がメリットになる柔軟な対応が、使い手への心遣いへと繋がっています。
ひとつひとつ手作業による装飾や「粉引」と呼ばれる技術など。制作では、これまで継承してきた手づくりの大切さを残しつつ、その時代やニーズやトレンドに合わせた新しい商品作りにチャレンジされています。
光泉窯さんの萬古焼作りに対するアンテナはあらゆる方向へ向いているように見えます。誰もが日常的に手に取りやすいシンプルで使いやすい作品は、自ら足を使って得た情報を集約し、培ってきた技術の掛け合わせから生み出されているのです。
ー想い
光泉窯さんは「魅力あるうつわを通じて、人と人との出会いを大切にしたい」 そんな想いで、手作業にこだわり制作しています。
今後は窯元自ら提案をし、外に出て行くことも必要だと考えています。魅力のあるうつわは、人と人を繋いでくれますから。できれば1年の半分を制作に、半分を販売に充て、いろんな人と出会いを大切にしたい。そこに新しいチャンスがあるのではと思っています。
1年を通して全国各地の陶器市やイベントに出店している光泉窯さん。人との出会いで得たリアルな使い手の声を、商品の開発や改善に反映しています。
使い手の声を原動力とし、ニーズを汲み取ってくれる光泉窯さん。その想いに触れることで、使い手側も器への思い入れが変わっていきます。あくまで使う側の立場に立って考え、進化を続けていく光泉窯さん。これからもどんな作品を作ってくださるのか楽しみです。
ー作り手情報
2021年3月25日